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本編(リレー企画)

ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第十一話

 ←ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第十話 →ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第十二話
詠羅さん原案でのリレーシナリオです。

前回の話

ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第一話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第二話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第三話

ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第四話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第五話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第六話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第七話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第八話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第九話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第十話

第十一話

著:ロディ山



「ジン、援護を頼むぞっ」
「え、おっ、おう!」

ジンはヒルダにしどろもどろになりつつ応える。しかし、言い終わる頃にはその橙色の装甲はすでに遥か遠くの位置にいた。巻き起こされた風が、自身の髪をなでている。

「でぇりゃあああ!」

突っ込んできたルピナスに、真正面からぶつかる形になったヒルダはそのまま腕を突きこんだ。ルピナスは闘牛士がするように、身のこなし一つで突きをかわすと長大な斧を一振りする。発生した衝撃波が、地を這いながら射線上にあるものを強引に引き裂く。爪を盾にして衝撃波をやり過ごしたが、カバー仕切れなかった部分の装甲が抉られる。

しかし、ヒルダは損傷も意に介さずすぐに向き直り、再び爪を振りかぶった。繰り出される連続の突きの全てを、ルピナスは手にした長斧でいなす。金属と金属が互いに激しくぶつかり合い、甲高い音がばら撒かれては散っていく。

一方、援護を頼むといわれたジンは銃を構えたまま、そこから動くことができずにいる。

(くそっ、なんて戦いだよ。速過ぎんだろーが!)

自身の眼前で行われている戦いは、人間が知覚できる速度をはるかに超えていた。

DEMどうしの戦闘は、高性能な人工知能による攻撃予測の連続であるという。ココロに眼ざめ、本来のDEMにない臨機応変さを身に着けた個体は、より高度で洗練された攻撃を行うことができる。それがいま目の前で繰り広げられている。ルピナスに関してはシステムの奴隷となっているはずなのに、本来の性能の高さからかまったく劣っているようには見えない。むしろヒルダを圧倒しているようにも見えた。

入れ替わり立ち代わり、激しく位置取りを変えてくりひろげられる斬撃と突きの応酬。ルピナスを捉えたかと思うと、次の瞬間には視線から消え去っている。そんな中、黄金の奥の赤黒い瞳が何度かこちらを見ていることに、ジンは気づいた。

(まさかこの激しい打ち合いの中、俺の狙いすらも読みながら戦っているのか)

狙いを定めている暇など一時もない。それでも必死に戦況を見定めて援護射撃を行うジン。
ヒルダの攻撃の合間に打ち込んだ援護射撃は、そのすべてが確実に回避されている。

「だめだ、ヒルダさん。早すぎて狙いがつけられねぇ。どっか隙を作ってくれ!頼む!」
「あいよっ」

ジンの要請に、ヒルダは簡単に応えてみせる。巨大な白い爪の先に、何かが収束していった。青と緑の、光の帯が螺旋を描いて橙色の装甲の腕を覆っていく。

「こいつはいなすことはできねぇぜ。空間その物を貫くからなぁ!......スピアサイクロン!」

ヒルダはルピナスに向けて力の限り叩きつけた。空間を螺旋状に貫くエネルギーの力場。彼女の全方位を多い尽くすように、光の螺旋が走って渦を巻く。辺りの空気の全ても巻き込み、その空間に存在するもの全てを穿つ。だが、其処にルピナスの姿はない。

「まぁ、読んでいたけど......よっ」

背面に接続されていたガトリングガンが、突如火を吹く。背後から長斧を振りかぶっていたルピナスに直撃。胸辺りに直撃を食らったルピナスは、姿勢を崩し後ずさった。

(今だっ)

その一瞬を、ジンは見逃さない。サラマンドラの機構が、弾丸に魔力を送り込む。火の魔力により、通常弾が変化を起こす。

「フレアショット!」

黄金の仮面に、サラマンドラの撃ち出した弾丸が直撃する。ジンが取った策は、内部にとどまり破裂する魔法弾を使用し、一発で再起不能にするというものだった。

相手のスピードは到底知覚できるものではなく、狙いを定めることすらままならない。となれば、数少ない攻撃のチャンスを最大限に生かしていくほかない。着弾とともに、ルピナスが仮面を抑えてよろめく。その様子を、苦々しい表情で見つめるジン。

いくら相手が凶悪な戦闘力を持つDEMと言っても、女の子に銃を向けるというのは気分がいいものではない。それに、後ろでは彼女たちが見ているのだ。見たくはないだろう。自分たちの姉妹が攻撃されるところなんて

「「ルピナス......」」
「貫通しちまったか。でも、これでおとなしくなってくれれば」

弾丸は自身の狙いとは別に、仮面を貫通し頭部を抜けてしまった。距離が近すぎたのだろう。それでもルピナスの状態を見る限り、それなりのダメージを与えることはできたようだ。

ルピナスは仮面を抑えた姿勢から、いまだに動いていなかった。まるで、その瞬間のまま時が止まってしまったようにすら感じられる。ジンはこれで終わってくれることを願った。

「へぇ、お前ら結構やるんだな。恐れ入ったよ」

騎乗ロボの上から、ジブルは感心したという風にわざとらしい拍手をしてこちらを眺めている。騎乗ロボは、未だに力の応酬を続けているというのに、上に載っている主人は実に暢気なものだ。

「長いことそこの馬鹿のお守して鍛えられてるからね。なめんじゃないよ」
「な、なんだよお前、その言い方ないだろ!?」
「うるせぇバカストロ。お前はさっさとそのにやけ面野朗を何とかしやがれ!」
「何とかっつったって......こいつ、思ったよりパワーがっ、おわっ」

そこのバカが、口を尖らせ不満を漏らしながら、操縦桿をがちゃがちゃと動かした。ロディの愛機は思うように抵抗できていない。さっきは拮抗していたかと思われる力比べも、今は完全にジブル側が有利だ。

頭蓋模様の胴体が、上からにらみつけるようにロディとその愛機を押し付けている。脚部が明らかに正常ではない音をさせて火花を散らした。次の瞬間、ガクりと右脚が膝をつく。

「おいおい、まさか今ので勝ったとか思ってんじゃないよな」
「......どういう意味」
「ヒルダさん危ない!」

ジンが飛び込み、ヒルダを連れその場を離れる。と同時に、耳をつんざくような轟音がとどろいた。二人が飛び去った先の地面には、巨大な亀裂が走っている。

「......くそっ、やっぱり駄目かよ。貫通でも、行けるかと思ったのに」
「損傷軽微、戦闘を続行します」

ジンは、ルピナスの様子を見て歯噛みする。穿れた仮面から、弾丸の抜けた大穴が覗く。虚ろな穴は向こう側の壁を映し、内部に詰まっていた何かしらの機構が火花を散らしているのが見える。

「ルピナス、制限を解除する。やれ」
「マスターの解除命令を確認。機能制限を解除します」
「何......?機能制限って」
「こいつを使わせると、一方的過ぎて面白くないと思ってな。制限をかけてたんだけど、その必要もなさそうだ」

狼が喉をならし警戒する。先ほどから変わらぬその余裕たっぷりな発言。彼をそこまで優越感に浸らせるものは一体何なのか。

ジンもヒルダも、相手をにらみながら考察する。

機能制限、つまりこの凶悪さにおいても相手は足かせをはめたままの状態であったという。驚異的なまでの俊敏性、複数の敵を相手にしながらも的確な立ち回りを行うその思考能力。そして一撃でも食らえば戦闘不能に追い込まれるほどの破壊力。考えれば考えるほどに、まさに敵無しな能力をほこるルピナス。

これ以上のものとは一体なんなのだろう。ジンは唾を飲み込んだ。

「つーわけで、今度は一方的に殺されろや」
「ソリッドコーティング」

ジブルの声とともに、ルピナスが小さくつぶやく。同時に彼女を中心として虹色に光るものが現れる。魔方陣に似たそれは、彼女の周りを一周すると最後に光の膜となって全身を包み込んだ。ジンは即座にサラマンドラを抜き、弾丸を撃ち込む。

しかしそのすべてが、相手を穿つことなく表面を弾いただけだった。銃声の余韻だけが、むなしく部屋に響き渡る。ルピナスは、ギリギリという音をさせながら頭部をジンへ向けた。赤黒いセンサーアイの輝きが、なんの表情も映さぬままこちらをにらみつけている。

ゾクリと背筋が凍る感覚がジンを襲う。本能的な恐怖が、頭の隅で増幅されて体を縛り上げてくる。突如、ルピナスが飛び上がった。自分の方に一直線になって向かってくる相手に、さっきと同じように弾丸を撃ち込む。

対するルピナスはというと、回避行動すら取ろうとしない。いいや、取る必要が無かった。彼女に直撃している弾丸のすべてが、表面を弾いて落ちていくのだから。弾丸がその役目を果たせずひしゃげて地面に転がっていくのを、ジンはただ見送るしかなかった。

「......一発も通らない。なんだよ、なんなんだよこれっ」

顔が恐怖で引きつるころには、もうそれは眼前に迫っていた。ルピナスが、手にした長斧を振りかぶってこちらに振り下ろそうとしている。ジンは咄嗟にバレッドブレードを抜きはなち、受け止める姿勢をとった。

ガンナーをはじめとする長射程の兵装を扱うことに長けたギルドスキル使用者は、基本的に近接戦闘において有効な手段を持たない。近づかれることはそれすなわち自身の敗北を意味する。相手は長斧を使った近接戦闘に長けたタイプ。しかも、相手を一撃だけで戦闘不能にできる可能性すら秘めている。

近づかれれば勝機はない。受け止めたところで、武器ごと腕を引きちぎられるか、下手をすれば自身の体が竹を割るように真っ二つになっているかもしれない。ジンはその瞬間が来るのを覚悟する。

「......ぐぅ」

その瞬間は訪れなかった。見慣れた橙色の装甲がルピナスと自分との間に割って入り、攻撃を受け止めていたからだ。ヒルダは苦しそうに呻くと、その巨大な爪のついた腕を振り払う。ルピナスは即座にその場から立ち退く。

「ヒルダさんっ、大丈夫っすか!?」
「ヒルダっ!?」
「ああ......これくらいどうってことねぇ。それよりも、早く距離をとれ......隙を作ってやる。そんときはまたとびっきりの一撃を食らわせてやれっ」

ロディとジン、二人の心配する声を他所に、ヒルダは余裕たっぷりに微笑む。

彼女の腕はひどい破損のし方をしていた。音速を超える連劇をすべて受け止めた爪は半分もげているし、前腕部においては人間ではありえない方向にひん曲がっている。

どうってことないようには到底見えない。

「ヒルダさん、無茶だっ」
「うるせぇ、お前は狙いをつけることに集中しろ......ぐぅおおあああ!」

そんな状態でも、残されたもうひとつの腕で必死にルピナスに対抗するヒルダ。ただし、そのすべての攻撃はソリッドコーティングと呼ばれる光の薄膜に阻まれ、ダメージを少しも与えられない。ジンも援護射撃を加えるが、それも無駄に終わる。

徐々にダメージが蓄積していくヒルダと、決定打にならない自身の攻撃。まさに一方的な展開。認めたくはないがジブルが余裕の表情をするのも納得できる。

「さぁ、この辺でいいだろうルピナス。そろそろフィニッシュを決めてやれ......まずはそうだなぁ。お前の同属からだ」
「イエス、マスター。最優先攻撃目標を、DEM-HLD-10010に設定します」

騎乗ロボの上で優越感に浸った笑みを浮かべながら、ジブルは指令を下した。指令の通りに、ルピナスはジンには目もくれずヒルダに攻撃を集中させはじめる。

「ぐっ、片腕がイカれてるからってなめるんじゃないよ!」

ヒルダは長斧の一撃をかわし、即座に体制を立て直して反撃に転じる。だが、片腕だけの連激では次を繰り出すまでに間ができてしまう。すべての攻撃がいとも簡単にいなされていく。

「これならどうだぁ!」

残された腕に、何かの力場が螺旋状に渦を巻いて収束していく。

ルピナスも回避を優先する攻撃、空間そのものを穿つ強力な一撃、スピアサイクロン。再び現れたすべてを切り裂く螺旋を、ルピナスは回避する間もなく全身に浴びる。床をえぐり、塵と埃が煙となって舞い上がる。

「......ちっ」

ヒルダが舌うちをした。靄の中から、何事もなかったかのようにルピナスが現れる。煙の合間から覗く赤い瞳が、相も変わらずこちらをにらみつけている。もはや、空間を切り裂く一撃であっても彼女を傷つけることはできない。

今度はこちらの番だとでも言いたげに、ルピナスがヒルダに長斧を向ける。その次の瞬間には、眼前に出現して長斧を振りかぶっていた。いかに人間より優れた反応速度を持つDEMにとっても、それはすでに知覚外のスピードと化していた。

「ぐっ」

残された腕でとっさに防御を取る。唯一残されていた攻撃手段が、目の前で音を立て破壊された。

「ぐぁあああああ!」

巨大な爪のついた腕が、上腕部から無理やり引きちぎられて吹き飛んだ。

激痛とともに叫び声をあげたヒルダが、その場にうずくまる。赤黒いオイルがあたりに飛沫となって飛び散り、落ちた腕が衝撃とともに床に打ちつけられて跳ねた。

「ヒルダさんっ......くっそぉ!」

彼女からルピナスを引き剥がそうと、衝撃で相手を吹き飛ばす魔法弾「チャージショット」を撃ち続けるジンであったが、やっぱりそのどれもが弾かれてしまう。

「どうすりゃいいんだ、どうすりゃいい。どうすりゃヒルダさんを助けられるんだっ。このっ、どけ、どけってんだよ!」

ただひたすらに弾丸を打ち込むジン。ルピナスは、はじけてひしゃげる弾丸も意に介す様子もみせない。長斧がゆっくりと持ち上がる。自身の設定した目標を、破壊するために。

「さぁ、まずは一人目だっ。やれ!」
「イエス、マスター」

音速を超えた一撃が、振り下ろされる。ヒルダは、恐ろしくなって目を瞑る。
次の瞬間には、自分の体は頭から潰されて屑鉄となっているだろう。

「ヒルダァアアアアアア!」

ヒルダは、馬鹿でどうしようもない愛する人の叫び声を確かに聞いた。
突如青い閃光が走る。目の前に大重量の物体が出現する気配を、ヒルダは感じた。



※※※



振り下ろされた長斧の発した風が、部屋の空気全体を揺らす。

「っ......え?」
「へへ、おい。なんて顔してんだよお前」
「ロ、ディ?」

ヒルダは、驚いた顔で眼前に現れた存在を眺めている。

ロディだった。

彼と彼の愛機が自分とルピナスの間に割って入っている。ジブルの拘束を振りほどき、咄嗟に短距離テレポート「ベイルアウト」を使用して彼女の盾になるために移動してきたのだ。ルピナスの攻撃をまともにくらった機体は、操縦席を叩き割りボディの中ほどにまで斧が食い込んでいる。全身から火花を散らしながらも、パワーアームでルピナスを拘束し続ける騎乗ロボット。受け止める際に発せられた衝撃波とその時に飛び散った破片はロディの上半身を斬りさいていた。時折、火花にロディの血が落ちて、鉄臭いような焦げ臭いような匂いを発している。

「お前、お前なに考えてんだよ。あんなのまともに食らったらあたしらDEMならともかく、人間なんてぐちゃぐちゃになっちまうぞ!」
「うるせぇ......んなこと知ったことか。俺は、自分が死ぬような目にあうより、お前が傷つくほうが嫌だ。ただそれだけだ」
「ロディ......あんた、本当に馬鹿だよ」
「お互い様だろ、片腕失うような無茶しやがって」

破片やら衝撃波やらにあちこち切り裂かれ、血の流れる体をもろともせずにロディは笑う。

「その腕、あとでちゃんと博士に見てもらおうな」
「......うん」

ヒルダは弱々しくうなずく。普段の強気で男勝りな感情は影を潜めていた。

ジブルは自分の望む結果にならなかったことに相当我慢ができなかったのだろう。二人を鬼のような形相でにらみながら、悔しさに歯を食いしばっている。

「ふざけるな、そんな茶番は見たくはない。ルピナス、何をしている。さっさとつぶせ!」
「イエス、マスター」

ジブルが下した命令に、ルピナスが長斧を力任せに押し上げようとしだす。抑えていたパワーアームが悲鳴を上げた。半壊な上に、ついさっきまで馬鹿力で押し合いをしていたためあちこちにガタがきはじめている。強大なパワーを抑えていられるのは、よく持っても1分ぐらいか。

「ロディさん、そいつは思った以上に馬鹿力だ。たとえ騎乗ロボでもいつまでも抑えきれない」
「わかってるよ、なら......動き出す前にけりをつけるだけだっ」

ジンの指摘にロディは自身たっぷりに答える。ロボのひざを沈め、ルピナスの額の位置と同じ高さまで顔を近づける。

ロディもあれで一応マエストロという機械を扱うギルドスキルの所持者だ。そういえばずっとDEMと暮らしていたのだし、彼らの事について少しは知識があるのかもしれない。それに自身たっぷりなあの態度、ひょっとしたらルピナスを無効化できる秘策か何かを持っているのか?どの道ヒルダも自分も損耗が激しい(ロディも似たようなものだが)。今ルピナスをどうにか出来なければ、ジブルの捕縛は難しいものとなる。こうなったら彼に期待するしかない。ジンは期待を込めた眼差しで、ロディを見守る。

「いつまで、あんなやつの言いなりになってるつもりだ......いい加減、目ぇさませぇ!」

頭突きだ。何の変哲もない、懇親の力を振り絞っての頭突き。各々はその様子を唖然とした表情で見ていた。派手な火花が散り、ルピナスの黄金の仮面が吹き飛ぶ。ルピナスがよろめき、ふらふらと頭を漂わせる。

「ギ......ギ......」
「はははは、馬鹿じゃねぇのか?その程度でこいつが参るはずねーだろが!」
「......なぁ、君は本当はこんなことしたくないんだろ?」

ジブルの嘲りに耳を貸さず、ロディはルピナスに語り掛ける。

赤い瞳が明滅を繰り返す。ルピナスは、砂嵐の画面の中に銀髪の男の姿と見慣れぬDEMとエミル族、それから良く見知った存在をその奥に見ていた。狼に護られるようにして、おびえたまなざしでこちらを見る二人の影。よく知っている。自分が護るべき対象。自分と同時期に作られた存在。

「あ、ああ......アアア」
「なんだ、どうしたルピナス。まさかさっきの一撃が?そんな馬鹿なことがっ、ありえん!」

自身の切り札が制御を離れ始めているのを見て、ジブルが焦り、声を上げる。

一方、ルピナスの中では自分に指令を下す存在が遠くなったり近くなったりを繰り返していた。
その合間、あの存在の笑った顔が浮かんでは消える。

-あー、ルピナスばっかりずるーい。かあさま、あたしもだっこしてよ-
-ふふ、順番だぞ。順番-
-次はあたしですの♪-

この記憶は何なのか。そもそも、これは私の記憶なのか。ノイズがひどい。所詮頭部の表層を破壊されたぐらいだというのに。揺らいでいる。DEMにとって唯一絶対のものが、彼女の中でかき回されていた。

「見ろよ、あの子たち。君の妹だって聞いた。彼女たちから聞いてる。君は母親や彼女たちを護れなかったのが悔しくてそいつに戦いを挑んだんだろ。それなのに、なんでそいつの味方してるのさ。プログラムだから、なんとか権限が移されたから......なぁ、そんなじゃなしに君はどうなんだ。これでいいのか?」
「馬鹿か、こいつら機械はそういう風にできてるんだよ。プログラムひとつでなんでもかんでも思い通りになるようにな。さぁやれルピナス、さっさとこいつらを殺せ!」
「うっ、うう......」

ルピナスが頭を抱える。長斧が、乾いた音をさせて地面に落とされた。
マスターからの命令、前方の障害の排除.排除.排除を実行

-今まで努力してきたんだ。きっとうまくいくさ-
-ああ......私の子供たち、愛して......いるよ......-
-ルピナスっ、だめっ戻って!ルピナス!-

「ぐっ、ウウウウ」
「ルピナス、お願い。あの、やさしいルピナスに戻って」
「もう、わがままも言わないですの。かあさまをしばらく独占したってかまわないですの。だから」

呻くルピナスを見ながら、姉妹が弱弱しく言葉を発する。ルピナスには、その言葉がはっきりと届いていた。自身の瞳に写る光景のノイズが、少しずつ晴れていく。

「クローバー、フリージア......?」
「ルピナス、ルピナスなの?」

愛しい姉妹の名を、今度ははっきりと思い出した。ルピナスは、戦闘で傷ついた体を引きずり姉妹のほうへと歩みを進めようとする。ロディも、ジンもヒルダも、奇跡が起こったのだと思った。狼を押しのけて、姉妹が彼女を迎え入れるために駆け寄っていった。ルピナスが、あのジブルの呪縛から開放された。

「な、わからずやにはこれに限るんだよ。......イテテッ。お前のときもさ、俺...いいや。なんでもねぇ。ともかく、諦めずに響くまでやればいつか通じるってもんだ!」
「そ、そういうもんなんすかね......」
「馬鹿かお前...まぁ、運がいいのは認めるけどよ。」

ジンとヒルダは呆れた顔でロディを見る。

血の滲む頭を指差しながら、ロディが白い歯を見せて得意げな表情をしている。Vサインまでしてみせるのがまた彼らしい。本当のところは、損傷による一瞬の誤作動が彼女のシステムとやらに異常を起こさせたとかなのだろう。相棒のようにコンピューターに詳しいわけでないので分からないけども......だが結果として彼の熱血な説得?が功をそうしたということに変わりはない。

ルピナスと抱き合っている姉妹を見る。まぁ、ひとまず何とかなったという事でいいかな。ジンは姉妹たちのことを見守りつつ、一人納得していた。

「......殺せっていってんだよ!このくず鉄がぁ!」

しかし安堵に浸る面々を、ジブルの怒声が打ち据える。彼が叫ぶのと同時に、ルピナスが再び頭を抱えて蹲る。

「う、あああ、た、たすけ......は、排除.排除.排除......ママママスターの承認......いや、嫌」

頭を掻きむしり、ルピナスは姉妹からよろよろと離れていく。システムの強制力と、取り戻しかけた自身の自意識が頭の中でぐちゃぐちゃに混ざり合う。倒すべきものが何なのか、従うべきものが何なのか。

目の前にいる愛すべき存在が、かつて自分たちに優しく微笑んだ母の笑顔が、再び揺らいでノイズががっていく。私は何か。その根本的なものが分からなくなっていく中で渡来した想いは、自分の姉妹、護るべき存在を傷つけたくない。今を必死に生きる者たちを、傷つけたくない。それだけだった。

「あ、アアアアアアアアアアアッ!」

だから、ルピナスは選んだ。自分が誰も傷つけなくてすむ方法。強制的にとはいえ、管理権限所有者によってそうなってしまう自分を停める方法を実行した。

それは、自身の機能を停止させること。

「ルピナスっ、だめぇ!」

クローバーとフリージアが彼女を止めようと駆け出したが、遅かった。

ルピナスは、自らのコアの納まっている胸部に手を突き入れると、迷うことなくそれを握りつぶす。
硬い物が圧壊した音がしたかと思うと、胸の穴から紫色をした宝石の欠片らしきものがこぼれ、床に散らばっていく。

「そんな......こんなことって」
「いやぁっルピナス、ルピナスゥッ!」

駆け寄る姉妹。涙の粒がぽろぽろと落ちては床をぬらして道を作った。ふと、薔薇をあしらったドレスの装甲が光に包まれて消失していく。彼女の本来の姿が露になった。赤く、豪勢なドレス姿の少女。いまその胸には、痛々しい大穴が開いている。

紫の長髪を称えた少女’ルピナス’は、震える手を、探るように姉妹へと伸ばしていく。
ロディもヒルダもジンも、突然のことにただ立ち尽くしていた。

「ああ......二人とも、そこにいるの?」
「うん、うん。いるよ。私たちはここにいるよ」
「ルピナスゥ......ううっ」

伸ばされた手をしっかりと握り締める二人。

「よかったぁ、二人を傷つけなくてすんだんだね。そこの、冒険者さんたちにも、お礼を言わないと。私を止めてくれて、ありがとうって」

そう言葉を発する彼女の目には、すでに何も映っていないのだろう。姉妹の顔の方向とは別の、何もない空間に向かって話しかけている。

「うん、うんっ」
「かぁさま、そこにいるの。かぁさま......護れなくてごめんなさい。皆に、迷惑かけてごめんなさい」
「違うよ、迷惑なんてかけてない。ルピナスはあたしたちやかぁさまを護ろうといっぱいいっぱいがんばってくれたじゃない」
「ほんとう?」
「ほんとうですの。皆皆、あなたに感謝してるんですの......だからお願い、だから」
「......そうなんだ」

姉妹二人の言葉を受けて、ルピナスは満足そうに微笑む。

「よかったぁ......かぁさま、先にだっこ......させて......ソノくライの......ワ......がまま......は......いいよね......」

虚空に伸ばされた腕が、パタリと力なく落ちた。その微笑のまま、彼女は機能を停止させたのだった。穴の開いた胸にすがり、二人の姉妹は涙を流し、声を上げて泣いていた。

二人のそばに、半壊の騎乗ロボがゆっくりと近づいていく。
ロディは操縦席から降りると、いまだ血の滴る額をぬぐってルピナスの前に向かった。

「ごめんな、助けてやれなくて」

しゃがみこみ、亡骸の穴の開いた胸を摩る。
自分が食らわせた頭突きによってできた額の傷をなでつつ、ロディは涙を一筋流した。
水滴が彼女の頬をつたって、床へと落ちる。

「けっ、どんなに強くても所詮はガラクタか。くだらないお涙頂戴なんて演じやがってよ」
「......」

ジブルが吐き捨てるように言う。同時に、ヒルダとジンが顔を怒りで染め上げて彼を睨みつけた。
姉妹も、すがりつくのをやめて憎悪に歪んだ顔をさせて彼を見る。

「おうおう、良い顔だねぇ。そういう顔なんだよ見たかったのはさぁ」
「......これではっきり分かった。お前は、悪いやつだ。それも、最悪で最低な」
「あ?だったらどうするんだよ」
「......お前だけは、絶対に許さない。セタリカやルピナス、お前にもてあそばれたDEMたちの怒りを、彼らに代わって俺が食らわせてやる」

ロディの怒りに呼応するように、半壊のロボが唸り声を上げて立ち上がる。
その姿は痛々しい。砕けた強化装甲は内側の本体に一部突き刺さっており、元の青い装甲を貫いている。少し動くごとに破損箇所から部品が抜け落ちてカラカラと床を鳴らす。オマケにあちこちから正常ではない音が出ている。

「そうか、なら......俺も奥の手を出さなきゃなぁ」

対するジブルはというと、気味の悪いほどに余裕たっぷりな表情をさせていた。
口も目も三日月がごとく曲がっている。まるでこれから始まることが、楽しくて仕方がないという様子だった。

史上最強のDEMルピナスは自壊。自身の部下も自分たちがここ’マザールム’に到達するさいにすべて全滅させた。もはや彼に残されている戦力は、自身の騎乗ロボだけのはずだ。彼の騎乗ロボがロディのそれを上回る性能を誇っているのは、先ほどまでの騎乗ロボ同士の取っ組みあいを見ていたので良く分かる。

しかし、直接的なパワーが強いというだけならばいくらでもやりようはある。しかも、こちらは二人が損傷しているとはいえ戦えないかと言われればそうでもない。むしろ彼ら二人なら、どんな状態であっても立ち向かおうとするだろう。

「ロディさん、ヒルダさん。まだ、やれますよね」
「ああ、今までの時間でほんの少しだがナノマシンの修復機能をフル稼働させて片腕を修復したよ。見た目的にはあんまりかわらねぇが、あの野郎に数発ぶち込むぐらいならわけねぇ」
「大丈夫だ、俺のロボはこのぐらいじゃへこたれないさ。こいつだってまだまだやる気まんまんだ」

折れた片腕を掲げるヒルダと、半壊ながらもアームを振り上げるロボを横目にみる。ジャケットの内ポケットに手を突っ込む。敵の兵団、ルピナスとの戦闘を終えたあとではあるがまだ残弾に余裕があることを、ジンは確認した。

奥の手というのが気になるが、それを使われる前にどうにか出来てしまえばいい。
消耗の激しい二人には、攻撃よりも相手の霍乱をお願いして......
次の闘いに備え、頭の中で作戦を練っていたその時

「な、なんだ」

部屋の奥底から、地鳴りが近づいてくるのをジンは感じとった。何事かと身構える5人と一匹。

「なに、この反応......そんなっ」
「そんな、ありえませんの......」

頭を抱えるフリージアと、驚いた顔をするクローバー。
迫り来る地鳴りの正体を、二人は知っていた。クローバーが、震えた声でつぶやく。

「マザー......ドラゴン?」
「かぁさま」

二人の声と同時に、ジブルの後方、マザールームの内壁がひび割れて吹き飛ぶ。

轟音とともに飛び散る瓦礫から、飛びのいて距離をとる面々。狼が咄嗟に姉妹を突き飛ばし、瓦礫から護ろうと覆いかぶさった。幸い、飛んできた瓦礫はそこまで大きいものではなかったらしい。音が収まるとともに、姉妹の上から立ち退くと、自身にとんできたホコリや瓦礫を身震いして払っている。

いまだ湧き上がっているホコリや塵の合間から、それは姿を現した。

白銀の表皮が、部屋を灯す薄青い光を反射する。太く、鋭い爪が並んだ足。踏みしめるたび、床が重量に耐えかねてひび割れた。鋭利な爪の並んだ巨大な腕。時折細かく震えているのは、爪に仕込まれている振動ブレードによるものだ。触れる物はみな切り裂くとでも言いたげに、唸りを上げている。幾重にもつながれた尾が、ふらふらとゆれては先ほどの瓦礫を払っていた。青紫のラインが、血管のごとく張り巡らされた竜の翼。ゆっくりと羽ばたきに似た動作を繰り返しながら、舞い上がったほこりや塵を吹き飛ばしはじめた。

そうして、払いのけられたもやから覗いた白銀の巨竜の首には、頭が無い。
見慣れぬ何かの機構物が、本来あるはずの頭部に変わって取り付いていた。

「そう、マザーは頭だけじゃなくて、体にもかなりの利用価値があってな。ちょいと改造してみたのさ」
「ひどい、ひどいわ。なんてことを!」
「機械は人間様に使われてなんぼなんだ。むしろ余すところなく利用する俺は、だいぶ良いやつじゃないのか?」
「ふざけんな......ベイルアウト!」

ロディが叫び、ベイルアウトを発動させてジブルの眼前に飛んだ。繰り出される渾身の抜き手。
ジブル機は組み合うことなく回避すると、後ろを向いて駆け出した。行き先は頭のない巨竜だ。

「行かせるかよ」
「ウィークネスショットッ」

ヒルダは即座に背面のガトリングガンを起動させて、ジブルとロボに向けて撃ち込む。
ジンも相手の行動を封じようと、着弾後に貼りつきつき相手を絡め取る特殊弾を打ち込んだが、そのどれもがロボの表面にぶつかってはひしゃげて転がっていく。

ルピナスが使っていたエネルギー障壁、ソリッドコーティングと同じもの。白銀の竜が、ジブルのロボに向かって手をかざしているのが見える。おそらくはアレが彼のロボを護っているのだ。元を断とうと、即座に狙いを巨竜にあわせて弾丸を撃ち込むジンであったが、やっぱり同じようにはじかれた。何かしたのかと言いたげに、竜は体をすこし振るわせると頭のない首をジンに向ける。

背筋が凍る感覚を覚える。ルピナスと同等、いや、それ以上の恐怖を感じて後ずさった。そうこうしている間に、等々ジブルは巨竜の前にたどり着く。

「おもしろいのはこれからだ」

竜が体を沈ませて首の先端をジブルのロボへと向けた。

彼のロボの足が、折りたたまれて小さくなる。背面のドラム型のようなパーツがうごめく。本来であればジェネレーターの部分の装甲が開き、そこからいくつものチューブが伸びて、首とつながっていく。やがてがっちりとつながると、竜はその新たな首となったソレを持ち上げて立ち上がった。次の変化がおきた。騎乗ロボの正面、人の頭蓋のような部分の正面装甲。その口に当たる部分が、バクリと割れたのだ。煙を吐き出し、その口腔内に幾重にも生えた牙をぎらつかせる。操縦装置の全面が、赤黒い血のような色をさせて発光した。

「はははっ、さぁメインディッシュだ。DEMマザーの力、その身をもって味わうがいい!」

ジブルとかつて白銀の機竜であったものが、雄たけびをあげる。





つづく
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