本編(リレー企画)

ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第七話

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詠羅さん原案でのリレーシナリオです。

前回の話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第一話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第二話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第三話

ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第四話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第五話
ヘルズ ドミニオンズ 復讐のコア:第六話

第七話

著:ロディ山



「えーと、塔の島周辺にいた人たちには一通り聞いてみたんですけどそれらしい人は見ていないそうです」
「そうか......そっちも収穫なしか」

ロディはその銀髪頭を垂れ、悔しそうな表情を浮かべる。
愛機の騎乗ロボが、主人の心を代弁するように地面にしゃがみ込む。

冥界に到着後、三人はそれぞれに分かれて探し回った。
騎乗ロボに乗れるロディと、マシナフォーム時に移動速度増加用のブーストパーツを装備できるヒルダは遠くのエリアを担当し、ロードは天まで続く塔や、軍艦島やウェストフォート周辺を担当していた。

「ロード、ロディ」
「ヒルダさん」
「その様子だと......そっちも似たようなもんなんだな」
「くそっ、どこに隠れやがったんだジブルのやつめ!」

ロディが憎らし気に声を荒げて、騎乗ロボの操作盤を叩く。
各員の地道な捜索活動にもかかわらず、未だにセタリカとジブルの足取りは掴めないままだ。
集合場所に戻ってきた三人は、皆一様に暗い顔をしている。

「これ以上は、僕たちだけでは限界があるんじゃないでしょうか......」
「そうだけどよ、となるとどうすりゃいいんだ」
「まぁ、落ち込んでても仕方ないだろ。まずはそれぞれどういう風に探していたかとか、誰かに尋ねたならその情報とかも一度出し合って整理してみようぜ。ひょっとしたらあたしらが気付いていないだけで、何か重要な手がかりがあるかもしれないし」
「そうだな...じゃあまず、俺から話そう。えーと、俺はまず...」

落ち込み暗い顔をしているロディに、ヒルダはすかさず各員の集めてきた情報を整理しようと提案する。
この状況ではあるが、焦るばかりで冷静さを失っていては見えるものも見えてこないという、彼女の言い分もよくわかる。
しかしロードは同時に、やはり今のやり方では難しいとも感じていた。

ロードは、ロディのする捜査報告を聞きながら視線を冥界の空に移す。
冥界は広いということを、今更ながらに実感する。
一つの世界をたった三人で探すということ自体、無謀以外の何物でもない。

こうして三人でなにか手がかりが見つかるまで、冥界充を捜し歩いている間にも時間は過ぎていくのだ。
ようやく手がかりが見つかってその場に駆けつけたとしても、そのころにはセタリカがどうなっているのか想像に難くない。
できるだけ速やかに彼の行方を見つけるには、三人だけでは足りない。
人海戦術を使いたいところだが...そんな大規模の人員を抱えている組織は、この冥界では一つしかないだろう。

「あの...一つ、まだやってない事があります」
「え、本当かっ。どんなんだ。教えてくれ!」
「それは...その、レジスタンス軍に協力を仰ぐことです」
「え」

ロードが提案する。

彼の突然の提案に、ロディの顔が固まる。
彼にとって、それはできることなら避けたい方法だった。
ロディにとっても同じだったのだろう。
冥界に来てからも、個人個人で探すよりもその土地に根差した大規模な組織の力を使った方が可能性も上がるというのに、あえてそれを避けるように’自分たちで探し出そう’と言い出していたのを、今更のように思い出す。

「いや、まぁ...それは良いんだけど、お前は本当にいいのかよ。その、あんまりいい思い出無いんだろ?」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ。このまま時間ばかり過ぎてしまって、セタリカさんに何かあったらどうするんです。個人のいざこざなんて......この際どうだっていい。彼を救うために、今はできる最善のことをする。それだけのことです」
「そ、そうか...」

気を使ってくるロディに、ロードはそんなことよりもと強がった。

当時、彼と出会い共に庭に住むようになったとき、彼には自分の冥界にまつわる事情をすべて話してしまっていた。
まさかこのような形で戻ってくることになるとも思っていなかったし、当時の自分はすべてをぶちまけなければ壊れてしまいそうでもあったのも事実だ。
そして今も最善の方法を避けさせてしまうほど、自分の動揺というか、この煮え切らない気持ちが相手に伝わってしまっている。
そのことにロードは罪悪感を募らせるが、今はそれよりも優先すべきことがある。

気合いを入れ直すように、ロードはロディに向き直る。

「さて、ともかくレジスタンス本部のあるウェストフォートに行きましょう。ロボに三人は乗れますか?」
「ぎりぎりだけど、なんとか行けるはずだぜ」
「あたしはいい、ブーストパック使って移動すりゃいいだけだしな」

レジスタンス本営のあるウェストフォートへの移動手段について、相談していたときだった。

天まで続く塔の島上空で異変がおきる。
塔に貫かれている分厚い雲が、生き物のようにうごめいたのだ。
雲はしだいに下に向けてふくらみ、やがて限界を迎えて千切れると、中から想像を絶するほどの巨大な物体を吐き出し始める。
旧文明の遺産たる飛行エンジンの重低音をあたりにまきながら、それはゆっくりと降りてきた。

エミル世界の誇る、最大級の空飛ぶ庭......いや、空を飛ぶ城。

飛行城が、冥界の空に現れた瞬間だった。

「すっげぇ......」

ぽかんと口をあけ、城を見上げながら頭の悪い感想を呟くロディ。
その隣で、彼ほどの馬鹿面でなくとも、同じように驚いた表情で城を見つめる二人。

「さて、随分と大げさな登場の仕方だな。あんたらも、そう思わないか?」

いつの間にか隣から聞こえてきた声に、三人は振り向いた。まるでエミル世界の西部劇映画にでも出てきそうな風貌の男が、両隣にレジスタンス標準装備の鎧を身に着けた兵士を従えている。
飛行城のエンジンから排出される生ぬるい空気に、深い紺色の短髪をなびかせて男は城を見つめていた。彼こそ、レジスタンスリーダーを務める男。ベリエルその人だ。

「お前は停泊場所を指示。あとのやつらは俺と来い」
「了解しました!」

リーダーは部下たちに指示を飛ばしながら、自分は降りてくる飛行城の方へと歩みを進める。
停泊場所へと誘導された飛行城に、橋が掛けられる。
何もない城の船底の板の一つが、突如浮き上がって開いていく。
内部にいた何者かに、夕闇に染まりきれないドミニオン世界の夕陽が当たる。

駆け足で降下地点に向かったロディと2人は、物陰に隠れつつ、現れたレジスタンスリーダーの弟ベリエルと飛空城から降りてきたもう一人のエミル族を傍観する事にした。
飛空城から現れたエミル族に三人は息を飲む。以前ギルド元宮で、できる事はなにもないと言いはったエミル・ガーディアンのキリヤナギが、そこに居た。

「ごきげんよう、ベリエル陛下。御迎えを感謝致します」
「ようこそ冥界へ、歓迎する。……が、陛下はガラじゃねし、俺の事はベリエルでいいぜ」
「ご謙遜を、しかしご要望とあらばそう致します。ベリエル様」
「大体の話は聞いているが……今日はもう遅い。詳しい打ち合わせは明日でも構わないかい?」
「えぇ、話を聞いて頂けるだけも光栄です」

笑顔を見せ、握手を交わす2人はまるで友人の様に会話する。
ロディはそれをまじまじと見つめ、2人もまた観察していた。
しかしその中で、ロードは飛空城からでてくるタイタニアとエミル族に目を持って行かれた。

カナトとジンだ。

キリヤナギは2人をベリエルに紹介して、グランジを含めた四人でウェストフォートへと向かう。
それにはっとしたロディは、岩陰から飛び出した。

「待ってくれ! 」
「誰だっ」

ベリエルの護衛が武器を構える。
ロディは怯まず、言葉を続けた。

「仲間が、この冥界に連れさられちまったんだ。頼む、俺たちだけじゃ探すのにも限界があって......たのむ、レジスタンス。力を貸してくれないかっ」
「仲間?......すまないが後にしてくれ」
「そいつと、そのキリヤナギと俺たちの目的は同じはずだ!だから!」
「!? そうなのか?」
「……いえ、存じません。しかし、私は冒険者を牽制する立場でもありますので……」
「ふーん。だ、そうだ。行方不明者なら専門の窓口がある。そこを通してくれ……」
「ベリエル様、私は冒険者を牽制する立場ですが、同時に守護する義務もある。彼らがレジスタンスではないのなら、私の管轄になります……」
「ほう……、面倒な立場だな。それなら好きにしてくれ。だが用意した宿は四人部屋だ。お前達は自腹でいいな」
「へ、あ、あぁ……」

キリヤナギは笑みを見せ三人に向けてマントを翻す。



※※※



案内された宿はウェストフォートの中でも富裕層の泊まる高級ホテルだった。
優雅な装飾で飾られ空気が輝く中、3人も同じ宿へチェックインを行い、明日へと備える。
だがどこか落ち着かないロディは、シャワーだけを浴びて座り込みじっと床を見つめていた。
ロードは浮かない表情を見せるロディに呆れ、気分転換の為にベランダへと出た。
すると外の広場に、一人のアークタイタニアが空中から下り立つ。
赤身のある黒羽の彼は、1匹の狼を連れ冥界の赤い月を眺めていた。

ロードに向けて、必ず向かうと告げたアークタイタニア・カナトだった。

「おや、ロード殿ではありませんか。……ご機嫌よう」
「......それはこっちも聞きたいことですよ。カナトさん。ああ、すいません。今そちらに行きますね」

声を掛けられたロードはそう言うと、ベランダから戻り部屋を出て、小走りで彼の元へと向かう。
玄関の扉をあけると、夏のエミル世界とはまったく違う空気が肌をなでる。
あちらなら、今頃でも蒸し暑くべたべたとしているのだが、こちらは妙に乾燥している。その上、すこし寒くすら感じる気温。あの熱がりのロディがいつも通りの調子であれば、夏の間だけ冥界に住もうとか言い出すかもしれない。

「改めてこんばんは、カナトさん」
「ご機嫌よう。再びお会いできてよかった。無事辿り着けたようで何よりです。休まれなくてもいいのですか?」
「いいえ、自分も寝れなかったしちょうど良かったです」
カナトは、向かってきたロードに軽く一礼をする。
ロードも彼に一礼をすると、不意にカナトの足元にいた狼が起き上がった。自身の居場所を譲るように移動すると、またうずくまる。
狼の気遣いに促され、ロードはカナトの隣に立った。

「......ありがとうございます。あんなに大勢の助っ人を連れてこれるなんて、カナトさんってすごい人なんですね。正直、来てくれるとは思っていませんでした。知り合ったばかりのあなたが、私たちのために動いてくださるなんて思えませんでしたから」

ロードは思っていたことを素直に話す。
いくらセタリカがエミル世界でおきた事件の被害者とはいえ、事は冥界に及んでいる。
あの時の総大将(キリヤナギ)の口ぶりからして、冥界にまで手を伸ばすつもりは無いように思われたし、何よりもカナト自身に向けて警告のようなものを発していたし......。

それをどうやって、あそこまでの支援をとりつける形になったのだろう。
空に現れた飛行城の巨体を思い返す。
彼の隣の狼が、足元にうずくまって目を閉じる。
夜も深いし、眠いのかもしれない。
そんな狼の頭をなでながら、カナトは遠い目をすると口を開いた。

「私も、一度かけがえのない友人を失いかけたことがあります。他人事とは思えなかった。それに、一度この目で冥界を見てみたかったのです。それだけのことです」

友人を失いかけた。

過ぎた出来事に思いを馳せているのか、冥界の深い闇を見つめながらカナトは話す。
何があったか気にはなったが、それを聞くのはさすがにはばかられた。
たとえば自分の同居人の、あの二人のような、一言では言い表せない事情があったのだろうか。
なににしても想像しかできないので、深く考えることはしないことにする。
ふと闇を見つめていた彼の眼がこちらに向く。

「ロード殿、少々よろしいでしょうか」
「なんでしょう」
「貴方は此方にきてから、酷く落ち着いておられないようにお見受けする。なにか思うことかお有りですか?」
「え……」
「ヒルダ殿や、あれ程セタリカを救うと申されるロディ殿が、貴方をみて何かを堪えている……。きっと気を使っているのだと感じたのですが……」

カナトの指摘に、ロードは眼を瞬かせた後、頬をかいた。

「参ったな......」

小さく息を吐き出して、独り言のようにつぶやく。
たしかに、ロディもヒルダも’自分の事情’を知っている。
冥界に来たばかりのカナトに見抜かれたぐらいなのだし、自分やあの二人の動揺は思ったよりも表面化しているらしい。

「......ちょっと、長い話になります。その前に、この冥界が以前誰によって統治されていたか、簡単に説明しますね」

見抜かれている以上、このままなんでもないと返すことは出来ない。
それに、この人になら知ってもらっていてもいいかもしれない。
自分たちのために、何のゆかりもない冥界にまで来て力を貸してくれる、この人になら。

ロードは、気合を入れるように自身の頬を手で叩く。
そして、落ち着いた口調で、少しづつ言葉を発する。
カナトの足元の狼が、身動ぎしたあと、あくびをかましてまた眼を閉じた。

「昔、僕が生まれる少し前、この冥界には人望も厚く武に長けた名君がいました。名をオリアス。冥界王オリアスを、ある4つの家は常に寄り添って支えました。エミル世界的に言うのなら、貴族とか将軍とか言うのかな......。それが四天王家」
「四天王、ですか」

冥界王と四天王。

戦場では常に先頭にたち侵略者たちを退けるその姿は、まさに人々にとっての希望そのものと言っても良い存在だった。
しかし、そんな彼らを侵略者たちがいつまでも許すはずはない。
無尽蔵に送り込まれる敵、次々と現れる新たな兵器たち。
戦線を維持できなくなるほどの猛攻が何度も続き、遂には多数の拠点と領地が敵の手に落ちてしまう。
そのとき四天王家の戦士は自身の部隊兵や領民、家族たちを避難させるために最後まで戦い、犠牲となったという。
そして、辛うじて残った都市「ウェストフォート」に残された民と兵の撤退を援護する過程で、ついには冥界王オリアスも戦死。

かくして一時は希望とまでされた歴戦の勇士たちは、その全てが散ってしまったのである。

「僕の、生まれなんですけど......その、冥界王オリアスに仕えていた四天王家の一つなんです。両親は、その四天王の名に劣らない、素晴らしい戦士だったといいます」

その名は余りにも大きく、重い。
皆が彼ら王と四天王の勇姿を知っている。
彼らの一族の生き残りに、人々が同じ働きを求めるのは無理からぬことでもあった。

「周りが......二人の子供である僕に同じような働きを期待するのは、いま冷静になって考えればわかる気もします。でも、当時の僕には、それが重くて苦しくて、たまらなかった。だから、エミル世界に逃げたんですよ」

生まれて間もないうちに死んでしまった両親。
聞こえてくるのは武勇伝、部屋に飾られているのはきらきら光る勲章の数々。
そんなものでしか解らないものに、周りはなれと言う。

そんなすごい人になんてなれない。
本当はいつでもそう言いたかった。
なりたいものもわからないのに、勝手に決め付けないでほしい。
本当はそう言いたかった。

でも、期待を裏切るのも怖かった。
結局最後は、何もかも嫌になって冥界から逃げ出したのだ。

「......本当は、今回のようなことがなかったら、二度とこの地を踏まないつもりでいました。でも、僕はここに戻ってきてしまった」

そこまでを言い切り、ロードは空を見上げた。

二度と戻らないと決めていた地の空は、星すらもなく底が無いのではと錯覚するほどに暗く、深い。
自分の家の名前、過去の栄光は一体いつまで自分を苦しめるのか。
こんなものさえなければ、自分も彼らも互いに変な気を使うことなく、セタリカのことだけを考えて行動できたのに。

その思いが、ロードにある行動を起こさせる。

「そうだ、どうせならこの名前と過去の栄光、存分に利用しようかと思うんです。明日の打ち合わせのときに、僕の家の名が使えるかもしれない。オリアス王、つまりあの人の父親に恩がある四天王家の生き残りの話となれば、無下にするわけにもいかなくなるかもしれません。どうでしょうか」

自嘲気味に言ってカナトの方を見ると、ロードは家の名を利用することを提案した。
捨てた家の名前を利用することに、今更なんの抵抗もない。
どうせこんな重苦しいだけのものが役に立つ機会などそんなにないのだったらここぞとばかりに使ってしまったらいい。

当時、自分を追い詰めた周りのやつらの顔が頭の隅で浮かんでは消える。
パラベラムの名を出すと、へこへことへりくだる様子が想像できてすこし清清しい気分になる。
口の端だけで笑い、まるで何かを諦めたような顔をしているロードを、カナトは複雑な表情で見ていた。

「...それは過去の栄光にすがる……と言う事ですか? 四天王たるその四つの家は、王族を含めた国を、民を守ることを誇りとしていたのでは……?」

カナトにそう言われ、ロードの眉根があがった。

「貴族の名は本来、その領地を収めるもの。その権威や名声はその実績により発揮するものです。逃げ帰ったと称されるならば、例えその名を語ろうとも大衆は貴方を許さないでしょう」
「...じゃあ、どうしろって言うんですか! 僕達は貴方とは違う。あなたのように巨大な組織を動かすような人脈もないし、かといって戦況をひっくり返すような強大な力があるわけでもない。こんな、こんな重荷になるような名前しか僕には」

諭すように言うカナトに、ロードは怒りを露にする。
協力してくれるカナトには申し訳ないとは思いつつも、抑えずにはいられなかった。

自分のことを自称一般人と称するカナトではあるが、立ち振る舞い、エミル世界の巨大な組織を援軍として連れてくる手腕、そして今の貴族のあり方の説明から相当な人物であることは分かる。
そんな人には、自分の気持ちなどわからない。
力もなにもなく、目的を同じくする仲間に気を使わせてばかり。

自分が役に立てるとすれば、こんなものしかない。
それもやめたら自分は何のためにここに居るのか。

「今すぐに全てを手に入れるのは、たとえ貴方がどんなに秀でた人間であっても不可能でしょう。今まで何をされていたのかとは、愚問であるが故に問いませんが、まず貴方は何故、その重い過去を振り返ってまでこの世界に戻って来たのか、考えなおしては如何ですか?」
「......」

言われて、ロードは俯き、自問自答する。
そもそも、なんで自分はこの嫌な思い出ばかりの場所に戻ってきたのだろう。
それはセタリカを助けるためだ。
助けたいと願うロディやヒルダの力になりたいと思ったからだ。
それなのにさっきまでの自分ときたら、いつの間にか捨てた家の名をあてつけのごとく利用することしか考えていなかった。
それも、彼の顔が薄らいでしまうほどに。
家の名を利用するよりも、大事な事がたくさんあったというのに。

彼の顔を、ロディやヒルダたちの顔を改めて思い浮かべる。
彼と過ごした数週間。
あの騒がしい同居人たちと、まだまだ一緒にやりたかったことがたくさんある。

彼を見捨てて、放っておくなんて絶対に嫌だ。

「貴方は、高い地位を手に入れるために、この世界へ来たわけでは無い筈だ。名にすがる前に、その本来の目的に誇りを持ち成し遂げるべきではないでしょうか」

カナトはロードの眼をまっすぐに見た。
ロードの中にいいようのない気持ちが込み上げてくる。
自分の中でブスブスとくすぶっていたものが無くなったような気がして、ロードもカナトに笑いかける。

「すみませんでした。僕、なんかすこし変になってたみたいです」

自分の頬を二三度手のひらで叩き、表情を引き締めてカナトに向き直りながら、ロードはさっきのカナトの言葉に思いを馳せていた。

名を重荷に思うだけじゃなく、いつか名を誇れるような自分になりたい。
なれるだろうか、今からでも。

「こちらに来て、かなりお疲れの様に見うけられる。無理をなさらずおやすみください」
「ありがとうございます。でも、一つお願いしなければいけない事が」
「なんでしょう?」
「カナトさん。セタリカさんを助けるために、僕たちに、力を貸してください!」

部屋に戻り休むように勧めるカナトに、ロードは改めて協力を申し出る。
決意を固め深くお辞儀をするロードを見て、カナトはその返事を待っていたとばかりに返答する。

「どこまでお力になれるかは、存じませんが、尽力は致します」

端整なその顔に、笑みを浮かべてカナトは手を差し出す。
ロードは、その手を強く握った。

「ありがとう、ございます」

主人たちのそんなやり取りをみつつ、不意に狼がカナトの服を噛んでひっぱった。
もうそろそろ部屋に戻るべきだと言っているのかもしれない。
思えば二人と一匹は、もう随分と長いこと冥界の夜の中にいた。

「明日もあるし、もうそろそろ部屋に戻りましょうか」
「そうですね......ああ、待ってください。この後、少々お時間を頂けませんか?」
「へ?」
「ロディ殿やヒルダ殿にも是非、私達と少しお話を……」
「......わかりました」

二人と一匹は、冥界の夜に別れを告げ、宿へと戻ろうと踵を返す。
そんな彼らを、暗闇に紛れて伺っているものたちがいた。





つづく
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